Trump’s “America first” energy policy, contingency and the reconfiguration of the global energy order, FaridGuliyev, 2020を読んで


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画像の出所:

https://toyokeizai.net/articles/amp/344411?display=b&_event=read-body
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1.2つの偶然

トランプ陣営の新重商主義と、自国優先主義が世界のエネルギー体制に大きな変革もたらしている。背景にあるのは予想できない偶然性。その1つがトランプが当選したことである。この論文を読んで、はじめて、トランプの当選が、いかなる専門的知見や法則性からも「予想外」なものだったのかがわかった。もうひとつは、2014年の「シェール革新」を起こした技術革新である。米国が2007年に、LNGの輸入ターミナルを建設していたことから、それがいかに偶然かがわかる。

シェール革新とトランプの当選という2つの偶然が重なり、これまで化石燃料市場を牛耳っていた、中東諸国やロシアが突如、大いなる先行き不安に陥れられるプロセスはダイナミックかつ、国際政治経済に潜む、大きな不確実性を示す事例。

シェール革新×トランプという爆弾を前に、中東諸国やロシアは、早急な、経済構造の変革を迫られることになった。天然資源の輸出に依存して来たのだから仕方がないが、まさかこんな早く「変革の時」が来るとは思わなかっただろう。ロシアにしても、中東諸国にしても、甘い密をこの時のために投資してきたのか、それは十分かが試されていると思う。

2.欧州における覇権をめぐる米露

さらなる面白い点は、ヨーロッパ諸国が、ロシアに化石燃料供給の主導権をより強くさせているが、トランプ陣営は、必死に、東欧に整備されようとしているパイプライン建設を妨害している構図。ヨーロッパ諸国としては、どうやらどちらかというと米国には依存したくないように読み取れた。ここにNATO、WATOの面影はないのだろうか。

3.「時代を巻き戻す」トランプ陣営

エネルギー供給をめぐっては、特に化石燃料の偏在に伴う政治的なリスクがかつてから認識されてきたし、持続可能性や、環境への不適合性からも、その価値は見直されている最中である。そこに「新たな生産者」の参入が起きたが、これは果たして世界経済と地球に良いことなのか。

ダイベストメントの潮流を踏まえても(加えてパリ協定も)、米国の参入は「時代遅れ」と私の目に映る。ただ、トランプは、論文にあるように、これまでの国際的な環境改善の努力をぶち壊し、「時代を巻き戻そう」としているようである。ここに、国際的なガバナンスとトランプ的ガバナンスの論理の対立が生まれているように思う。

4.安全保障を考える:地球規模で捉え直す公共財としての化石燃料と食料

エネルギーをめぐるリスクは、たしかに化石燃料であれば、そもそも、いつか枯渇するという必然的なリスク(これはリスクなのか?)を抱えているが、それに加えて、以上で述べたように、「トランプ陣営」がそこに存在し、舵を握ることによって発生する、「トランプ的政治リスク」がそこに加わってしまう。

私が、ここで最後に述べておきたいことは、本来的には、エネルギーは、生産(厳密には搾取)から供給を通して、公正に扱われるべきものだと思う。それは、「そこに宝が眠っていたから」独占的な地位を得続けることは、不公平だと考えるからである。その意味で、「エネルギー安全保障」というのは、本来、あってはならない概念だと指摘したい。

エネルギーは、いまや、世界の「公共財」である。結果論ではあるが、人類は固定化された炭素を「呼び覚ます」べきではなかったかもしれない。ただ、イギリス産業革命は、人類を大きく繁栄に導く、口火を切った。

それから、世界は「炭素経済化」していき、いまも変わらない。

そこでは、多くの国が炭素経済であるから、食糧と並び、「命綱」である化石燃料を用いて、世界を振り回すことは好ましくない。

ここまで、グローバリゼーションが進んだ今や、食糧安全保障やエネルギー安全保障が問題になること自体が不健全である。

そうはいっても、国家を前提とした国際政治の論理はそんな美しいものではないから、今後、より一層、「食とエネルギーの自給自足」を前提とした経済・人口規模の中で各国は繁栄を目指していくべきだろう。

「裏切られても大丈夫」な自立した経済が求められていると思う。

5.米国よ席を譲れ、そして戻ってこい:まとめにかえて

米国は、もう十分甘い密を吸ったのだから、化石燃料を、外交のカードにするのではなく、途上国に安く売ってあげるべきではないか。そして、国家として、再エネへ大きな投資をすべきだろう。

米国よ、パリ協定へ戻ってこい。

 

 

 

Trump’s “America first” energy policy, contingency and the reconfiguration of the global energy order - ScienceDirect

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最終稿:2020.4.29